会社における「人権」へ向き合う姿勢が、ますます求められています。さまざまな言動が「人権に配慮したものか」を自問自答する姿勢を身に付けることが必要です。今回は「採用面談の場面で“家族に関すること”の話題を持ち出すこと」についての状況から、採用において就職差別にならないためのポイントを解説します。
採用面談の場面で「家族」の話題はNG? “就職差別”とならない選考採用のポイントを解説

採用面接などの場面で「“就職差別”につながるおそれがある内容」は?

厚生労働省「公正採用選考特設サイト 公正な採用選考を目指して」(以下、厚労省サイト)では、エントリーシートの記入や採用面談など採用選考の場面で、以下のような内容を確認すると「就職差別につながるおそれがある」として14事項を掲げています。

就職差別につながるおそれがある14事項

【本人に責任のない事項】

●本籍・出身地
●家族(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産など)
●住宅状況(間取り・部屋数・住宅の種類・近隣の施設など)
●生活環境・家庭環境など

【本来自由であるべき事項の質問】
●宗教
●支持政党
●人生観・生活信条など
●尊敬する人物
●思想
●労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会運動
●購読新聞・雑誌・愛読書など

【採用選考の方法】
●身元調査などの実施
●本人の適性・能力に関係のない事項を含んだ応募書類の使用
●合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施

厚労省サイトでは、「家族に関すること」について聞かれた割合が特に多いことが触れられています。そもそも、なぜ「家族に関すること」を聞くと、就職差別につながるのでしょうか。

なぜ、家族に関することを聞くと「就職差別につながる」か?

なぜなら、家族に関することは「本人の適性・能力に関する事項」ではないからです。

採用面談などの場面で、家族に関することを聞いてしまうと、家族構成などを事由に採用の判断をしたと捉えられるおそれがあります。採用面談である以上「求人職種の職務を遂行するにあたり、必要となる適性や能力をもっているか」という基準に基づいた質問であるべきです。

また、個人情報の観点からも、必要な範囲を超えて、家族の情報を知ることは望ましくありません。

なぜ「家族のことを聞いてしまう」のか? 対策とポイントを知ろう

【聞いてしまう理由・1】応募者をリラックスさせるため

採用面談は緊張した場面となりますので、応募者の適性や能力を把握するために、応募者がリラックスできる環境をつくる配慮が必要なことも考えられます。その配慮の一つとして「家族」を話題にすることがあるのかもしれません。

ですが、リラックスさせる方法は、必ずしも言葉だけではなく、面接者の柔和な表情・声のトーンなど「非言語」で示すこともできます。また、応募をしたことに対して、率直に感謝の言葉を伝えることで、応募者の気持ちを落ち着かせることにも十分つながっていきます。

【聞いてしまう理由・2】採用後のことが心配なため

会社としては、採用が決まった後に、提示した労働条件の通りに働いてくれるか心配に思うものです。しかし、その心配が過度になり、家族のことなどを掘り下げて聞くことは望ましくありません。

会話やコミュニケーションは、行き違いがあるものです。特に選考採用という限られた時間の中では、なおさらです。質問の内容によっては、就職差別と捉えられるおそれがあります。

大切なことは、応募者の適性や能力に関する内容を軸とし、提示した労働条件の通りに働くことが可能なのかを丁寧に確認していくことです。丁寧に確認していけば、応募者も確認したいこと、心配なことなどの質問につながります。また、会社も社会保険やワークライフバランスに関する制度を伝える機会ともなり、コミュニケーションの行き違いを防ぐことにつながります。

【聞いてしまう理由・3】人間性を確認したいがため

例えば家族の話題をきっかけに、応募者が「家族を大切にする人物」かどうかを確認し、大切にすることを根拠に「職場の仲間を大切にする人物」と判断したいと思うことがあるかもしれません。「家族を大切にする人物」は「職場の仲間を大切にする人物」という考え自体は、育児・介護などのワークライフバランスを推進していく上では、とても大切なことといえます。

ただ、選考採用という限られた場面の中では、一人ひとりの家族は違い、家族の背景(構成・職業・収入など)も違う以上、慎重に扱う必要があります。家族の背景を理由に、採用の可否を判断しないよう、判断したと捉えられないようにしなければなりません。

「就職差別につながるおそれがある14事項」を、企業理念・人事理念などと照らし合わせ、どのような質問が望ましいかをぜひ検討していきましょう。
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